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コンセプト

「この敷地は全部畑と田んぼだった」——東北芸術工科大学元理事長の徳山詳直(1930-2014)は、著書『藝術立国』(幻冬舎、2012年)で、現在本学が建つこの場所(山形県山形市上桜田)についてそう述べています。
2022年4月に30周年を迎えた本学の歴史を振り返ると、開学の1992年4月の段階では、校舎は本館、図書館、学生会館が建つのみでした。その後、同年9月には芸術学部?デザイン工学部の実習棟と体育館、1995年5月には新実習棟、1996年3月には大学院棟(現:デザイン工学実習棟C)、1996年12月には石彫棟が竣工し、次第に大学としての設備が整っていきます。もともと、「畑と田んぼ」だった土地の風景が、大学をきっかけに「新しい風景」に移り変わっていったのです。
さて、徳山は、山形に大学を設立することの意義についてこのように述べています。すなわち、「現代文明の反省の上に立った大学とはなにか、新しい世紀に向けて、もはやいかんともしがたいところまできた人類の文明を、新しい世代のなかでどう活かすか。(中略)これは大学の第一義的使命だと思っております」(「東北芸術工科大学生い立ちの記」)と。ここでの「新しい世紀」「新しい世代」を、本学設立の1990年代=20世紀から見た21世紀にとどまらず、さらに先の未来へと向けられたメッセージと解釈?想像することができないでしょうか。芸術?デザインの大学を設立するということ、そして、芸術?デザインを学ぶということは、そのような長期的時間と視野が必要なのだ、と。
開学30周年を記念して、本学が校友会との共催で開催する本展「ここに新しい風景を、」は、本学30年の歴史を年譜?言葉?映像等で振り返るとともに、この「新しい風景」で学び、巣立った卒業生8組とひとつのプロジェクトによる展示を行うことで、これからの未来を展望する機会として二部構成で開催するものです。1992年4月の開学以来、本学は、13,000人近い卒業生を送り出してきました。30年前、山形県にとって「新しい風景」であったこの大学で学んだ卒業生は、卒業後はそれぞれの生活する場所で、自らの「新しい風景」を作り出しているのではないでしょうか。タイトルに付けた読点には、この土地に抱かれ、この地域の人々によって育まれた東北芸術工科大学という「新しい風景」から、さらに新しいもの?ことが生まれていく、派生していくイメージを込めています。
もっとも、ある土地が「新しい風景」へと変化するのは、人為的開発だけが理由ではありません。2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故は、自然災害と人為によって、風景が思いがけない形で一変してしまう可能性があることを、その脅威をもって私たちに知らしめました。あるいは、昨今のパンデミックも、私たちの日常風景を著しく変化させてやみません。
本展が、時代が大きく変動しているこの時代に、私たちの生きるそれぞれの土地——風景を見つめる機会にもなれば幸いです。皆さまのご来場をお待ちしています。(小金沢智)

展示 その1

東北芸術工科大学 開学30年の歴史

THE WALL(本館1階)
年譜「東北芸術工科大学 開学30年の歴史」(制作:企画調査室)を基礎としながら、卒業生?教職員による「芸工大で、記憶に残っているイメージ(人?風景?物事)」「芸工大で学ぶ学生に対する言葉」についてのメッセージ?写真?映像などで、本学の30年を振り返ります。
この大学のエナジーの源は、ここ山形に吸い寄せられてしまった少々奇特なクリエイター教員たちのパワーと、そこに巻き込まれても楽しんでしまっている学生達の柔軟さだ
中山ダイスケ(グラフィックデザイン学科教授/学長)
1992年、開学したばかりの芸工大。本館と図書館、学食は完成していたものの演習棟はまだ工事中で、授業は全てデッサン室(現在の学食2階)と本館で行われました。
木原正徳(美術科洋画コース?総合美術コース教授/副学長)
もともとは目の前に田んぼが広がっていた芸工大で、今、畑をつくっている。
柳川郁生(基盤教育研究センター教授)
それはインターネットもなかった田んぼだった。
松村茂(企画構想学科教授)
夕方、山から巣に帰っていくたくさんの鳥。
石川忠司(文芸学科教授)
もっとも印象として残っているのは、やはり徳山詳直元理事長です。私の教員採用面接の際、最後に「お前は吉田松陰のようになれ」と言われました。
吉賀伸(美術科彫刻コース教授)
公園に木を植え、自ら環境を創ることや管理に関わることを始めました。この大学でこそ環境をデザインすることの大切なまなざしを得たと思います。
渡部桂(建築?環境デザイン学科教授)

展示 その2

卒業生8組と

ひとつのプロジェクトの展覧会

THE TOP(本館7階)
「ここに新しい風景を、」を全体のコンセプトに、8組の卒業生、ひとつのプロジェクト(チュートリアル)で展示を構成いたします。【出品作家】アメフラシ、飯泉祐樹、F/style、かんのさゆり、近藤亜樹、近藤七彩、多田さやか、東北画は可能か?、西澤諭志

アメフラシ

あめふらし/2015年に結成し山形県長井市を拠点に活動。美術家、画家、文筆家、デザイナーの4人でアート?デザインを通した地域との関わり方を模索。 2016年より廃工場の活用プロジェクトを開始し、自分たちの拠点でありスペースの在り方が変化していく市民アトリエ「Kosyau」を運営。 長井市の伝統祭事で使われる草鞋の供給不足を受けて、草鞋作りの継承?普及プロジェクトを2017年より継続。「金井神箒」の継承をメインとしたプロジェクト〈アーティストの冬仕事〉はアーティストが伝統産業継承のプラットフォームとして機能できるかの試み。失われゆくものを復活させようとする事で生じる矛盾とも向き合いながら作品を展開している。
参考作品:アメフラシ《Next Newness 発展の意味を問い直す代替案》2020年

飯泉祐樹

いいずみ ゆうき/1988年、茨城県ひたちなか市生まれ。2016年、東北芸術工科大学大学院芸術文化専攻修士課程修了。「時間」と「夢」について、形と構成を用いて立体表現を試みている。
参考作品:飯泉 祐樹《彫る夢をみた》2019年、桂?他木材?金具、《見えそうな夢》2019年、桂?樟?米松?他木材?金具

F/style

エフスタイル/五十嵐恵美1978年、星野若菜1979年、新潟県生まれ。東北芸術工科大学?プロダクトデザイン科を卒業した2001年の春、新潟市内に「エフスタイル」を開設。近隣の地場産業と手を組み、企画から流通までを一貫して行う。主な商品に、山形?月山緞通のマットや、新潟の伝統工芸品シナ織りのバック、ゴムが入っていない靴下、亀田縞、銅製品等。全国各地でF/style展を巡回。著書に『エフスタイルの仕事』(アノニマスタジオ)対談収録「サヨナラ、民芸。こんにちは、民藝。」(里文出版) http://www.fstyle-web.net/
F/style《HOUSE[DOGGY MAT]》2001年

かんのさゆり

写真家。宮城県生まれ。東北芸術工科大学情報デザイン学科映像コース(現?映像学科)卒業。2000年代初頭の大学在学中からデジタルカメラを使用し作品制作を行う。近作では自身の暮らす地方の住宅地を中心に暫定的で仮設的な風景を主なテーマとし撮影を続ける。2001年から継続的に写真をアップしているサイトがある。(白い密集http://sayurikanno.com)主な展示に、個展 2021年若手アーティスト支援プログラムVoyage「風景の練習 Practing Landscape」塩竈市杉村惇美術館(宮城)、グループ展 2015年「写真の使用法 新たな批評性へ向けて」東京工芸大学中野キャンパス3号館ギャラリー (東京)など。
参考作品:かんのさゆり《New Standard Landscape》2017年

近藤亜樹

こんどう あき/アーティスト/1987年北海道生まれ、山形在住。2012年東北芸術工科大学大学院実験芸術学科修了。主な個展に2021年「星、光る」山形美術館(山形)、「ここにあるしあわせ」シュウゴアーツ/ フィリップス東京/ 現代芸術振興財団(東京)、2015年「HIKARI」シュウゴアーツ(東京)。主なグループ展に2022年「国際芸術祭あいち2022」愛知県一宮市(一宮)、2018年「絵画の現在」府中市美術館(東京)、2012年「PHANTOMS OF ASIA: Contemporary Awakens the Past」Asian Art Museum(サンフランシスコ、アメリカ)、他多数。
近藤亜樹《ただいま山形》2021年、Acrylic on canvas、130.3x162cm Copyright the artist Courtesy of ShugoArts

近藤七彩

こんどう ななせ/工芸美術家。1997年、岩手県盛岡市出身。2022年、東北芸術工科大学大学院芸術文化専攻工芸領域修了。アートアワードトーキョー丸の内2020/2022選抜。2020年フランス大使館賞受賞。Kaika tokyo award2022秋元雄史賞受賞。go for kogei2022に参加中。モノと記憶の再解釈をテーマに家具型の作品を制作し、美術?工芸分野への発表を行う。
参考作品:近藤七彩《あゝ、綺麗な夜明けだった。》2022年、茶箪笥?鉄?エナメル塗料?建具類

多田さやか

ただ さやか/絵描き。山形県出身、東京都在住。 2015年、東北芸術工科大学大学院芸術文化専攻日本画領域修了。また同年より1年間、東京芸術大学大学院美術研究科絵画専攻油画技法?材料研究室にて研究生として学ぶ。 「VOCA2020」(上野の森美術館、2020年)、「META」(神奈川県民ホールギャラリー、2021 年)、「たえて日本画のなかりせば:東京都美術館篇」(東京都美術館、2022年)出品。?近年の主な個展として、「YOU」(ゆう画廊、2020年)、「Let’s Get Lost」(亀戸アートセ ンター、2021年)を開催。「理想郷」を描いている。
多田さやか《Shambhala》2015年、和紙にアクリル?岩絵具?箔、2,080 × 10,800mm

東北画は可能か?

とうほくがはかのうか?/2009年11月、東北芸術工科大学にて日本画コースの三瀬夏之介と洋画コースの鴻崎正武により、学生と共に東北における美術の可能性を考えるチュートリアル活動として「東北画は可能か?」はスタートした。「いま」「ここ」、そして「わたし」が交わる結束点に各々の「東北画」が生まれると設定し、地域や歴史の勉強会にフィールドワーク、アートプロジェクトへの参加、共同制作などを行ってきた。主な展覧会に「平成美術:うたかたと瓦礫(デブリ)1989-2019」展(京都市京セラ美術館、2021年)。2022年7月美術出版社より初の画集が出版。
参考作品:「東北画は可能か? —千景万色―」(原爆の図 丸木美術館、2022年)会場風景 撮影:吉江淳

西澤諭志

にしざわ さとし/写真家?映像作家。身の周りにあるものをカメラで記録することによって、それらを取りまく社会的、経済的要因へも目を向ける制作活動を行う。主な個展に「クリテリオム98 西澤諭志」(水戸芸術館 現代美術ギャラリー第9室)、「Parrhesia #013 西澤諭志[普通]ふれあい?復興?発揚」(2018年、TAPギャラリー、東京)、「ドキュメンタリーのハードコア」(2011年、SANAGI FINE ARTS、東京)など。ジャンルの境界を越え国内外の映像作品を紹介する「Experimental film culture in Japan」にも携わる。
参考作品:西澤諭志《東日本大震災?原子力災害伝承館/東京オリンピック?パラリンピック選手村》2021年

関連イベント

キュレータートーク

日時:2022年9月3日(土)13:00~14:00
場所:東北芸術工科大学 THE WALL(本館1階)、THE TOP(本館7階)
定員:なし
参加費:無料
「ここに新しい風景を、」展を、担当キュレーターの小金沢智(東北芸術工科大学専任講師)が会場でご案内いたします。

西澤諭志『百光』上映会+トーク

日時:2022年9月18日(日)13:00~14:45
場所:東北芸術工科大学本館201教室
定員:150名(先着)
参加費:無料
「ここに新しい風景を、」出品作家の写真家?映像作家の西澤諭志さんをお迎えし、映像作品『百光』(2013年)の上映会とトーク(聞き手:小金沢智、本展キュレーター)を行います。
監督?撮影?録音?編集:西澤諭志『百光』、制作年:2013年、上映時間:72分