文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

善林千遥|修復素材として使用される 木屎漆の素材比較研究-木屎漆を構成するデンプン素材に着目して-
栃木県出身
柿田喜則ゼミ

 本研究では、修復材料としての木屎漆に着目し、様々なデンプン素材で木屎漆を試作した場合、木屎漆として成り立つのか、そして、修復材料として一般的な木屎漆と比較し、有用性はあるかを確かめることを目的として研究を行った。また、結果から現在主流の小麦粉の代用として使用できるデンプン素材の可能性を見出した。
本研究では、修復で使用する木屎漆に用いられている小麦?うるち米と、文献調査の結果、粘りが強いと予想されるトウモロコシ?ばれいしょ?タピオカを原材料に精製されたデンプンを使用している。実験では、事前実験としてデンプン素材の水練り?糊炊き(小麦デンプンを除く)、本実験として木屎漆の試作、木屎漆を手板へ埋め乾燥させた後の痩せの目視観察(図2)?削りやすさ(硬いまたは柔らかい)を確かめた。さらに、指定した5つの評価項目に従い評価を行った(図3)。
 事前実験の水練りでは、デンプン素材に含まれるタンパク質の量によって加水をしただけでまとまるものと、まとまらないものがあることがわかった。糊炊きでは、デンプン素材が属するデンプンのグループによって糊の粘り、色が異なることが判明した。
 本実験の結果では、今回使用した全てのデンプン素材で木屎漆が作れることがわかった。その中でも、特にトウモロコシデンプンを用いて試作した木屎漆が、一般的な木屎漆(小麦粉を用いて作られている木屎漆)に質感や見た目、乾燥後の状態などが最も酷似していた。一方で、うるち米?ばれいしょ?タピオカを用いて試作した木屎漆は、木屎漆として成り立つものの、成形がしにくい、痩せが多く削りにくいと感じた。このことから、本研究では、トウモロコシデンプンを用いて試作した木屎漆が最も有用性があると結論し、小麦デンプン(小麦粉)の代用として利用できる可能性があると考察した。
 ただし、本研究では、経年劣化をした際に小麦デンプン以外で試作した木屎漆がどのような状態になるかについては不明なままである。したがって、今回作成した手板に強制劣化実験を行い、一般的な木屎漆と比較観察し、さらに木屎漆としての有用性を検討することを今後の課題とする。

1.手板に木屎漆を埋めているところ

2.試作した木屎漆の目視観察

3.試作した各木屎漆の評価をまとめた表