文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

志村恵泉|善寳寺五百羅漢修復プロジェクトへのこどもを対象にした啓蒙活動の提案
山口県出身
柿田喜則ゼミ

 山形県鶴岡市にある善寳寺五百羅漢堂には500体を超える木造の仏像群が安置されている。(図1)東北芸術工科大学文化財保存修復研究センターでは、この仏像群すべてに対する調査?修復のプロジェクトを2015年より行ってきた。善寳寺五百羅漢像のように先人の努力により長い歴史を守り継がれてきた文化財は、今を生きる私たちがさらに未来へ確実に継承していくことが重要である。
 文化財を継承し保存?活用を行っていく上で欠かすことができないのが、その担い手の確保である。文化財の修復処置や適切な保存を行うには知識と技術を持つ人材が、維持や活用には多くの人々の理解と費用の捻出を含めた協力が必要であるからだ。文化庁による文化審議会(平成29年12月)『文化財の確実な継承に向けたこれからの時代にふさわしい保存と活用の在り方について(第一次答申)』においても、過疎化?少子高齢化の社会状況の中どのように文化財継承の担い手を確保し社会全体で支えていくかが検討された。その結果掲げられたのが ①文化財を次世代へ継承していくためには地域の住民やこどもたちがその価値に触れられ、地域の活性化やまちづくりに活かしていくことが必要である ②文化財の保存と活用にはその価値や魅力を発信し支援者の形成等に取り組むことが有効である といった方策である。このことから、本プロジェクトでも幅広い層に向けた担い手拡充のための働きかけが必要だと考える。
 現在プロジェクトでは一般の方に向けた啓蒙活動としてホームページやSNSの運用?動画配信?公開修復などのイベントを行っている。しかしその対象は中高生以上に限られており、小学生以下のこどもへの啓蒙は十分に為されていない状況である。五百羅漢像を末永く継承していくためには、将来その担い手になるより若い世代にこそ興味や関心を持ってもらうことが必要ではないだろうか。
 そこで本研究では善寳寺五百羅漢修復プロジェクトを題材に、文化財と文化財を継承する意義、プロジェクトの活動内容の知名度?理解度の向上を目的として、こどもを対象とした新たな啓蒙活動を具体的に提案(図2,3)し、その効果を考察する。現在までに行ってきた啓蒙活動よりも若い世代を対象に据えて啓蒙を図ることで、持続的に文化財の保存?活用が可能な社会の形成を目指す。

1.善寳寺五百羅漢堂内部

2.提案した啓蒙活動のイメージ画像-クイズ

3.提案した啓蒙活動のイメージ画像-こども向け資料