岡部二千夏|18世紀に普及した陶板画の制作背景と技法について-西洋絵画修復ゼミ所蔵の陶板画の保存修復を事例として-
福島県出身
中右恵理子ゼミ
本研究は西洋絵画修復ゼミ所蔵の作品である作者不明?画題不明の人物画を対象とする。本作品は支持体が板状の磁器であり、表面に人物画が焼き付けられている(A05-1、A05-2)。このような形態の絵画は陶板画と呼ばれる。本作品は木製の額縁と陶板で構成されており、陶板の表面には多数の傷や汚れが生じている。木製の額縁は自立できるが、亀裂が生じている箇所が複数あり状態が不安定である。この作品にはまだ保存?修復処置が行われておらず、必要な処置を行い、安定した状態で保存することが望まれる。本研究では陶板画という作品の形態がどのように生まれ、発展していったのかといった歴史について調査を行うとともに、技法について理解し、それらの理解をもとに対象作品について行う保存?修復処置を検討し、適切に処置を行うことを目的とする。
陶板画とは磁器の板に絵画的な図柄を焼きつけたもののことで、技法自体は18世紀中期にヨーロッパで生まれたとされている。より人気があったのは肖像画であり、若い女性の肖像画が特に好まれたモチーフであった。本作品もそのような作品の1つとして制作されたことが歴史的調査では分かった。陶板画には、日本において「洋絵具」と呼ばれる絵具が使用され、「上絵付け」と呼ばれる技法によって作成されることが技法的調査により分かった。
本作品の保存?修復処置を検討するため状態調査を行い、以下の3点に対して処置を行うこととした。1点目は陶板の画面に汚れが堆積し美観を損ねていること、2点目は額縁に亀裂が生じており強化が必要であること、3点目は額縁の構造から起こる展示状態の不安定さである。1点目の汚れに関しては画面の洗浄を行い、美観の回復を図った。2点目の亀裂に対しては、可逆性を考慮した接着剤や充填剤を用いて構造強化を図った。3点目に関しては、本作の額は陶板画の制作当初からの額と考えられることから、今後とも額縁と陶板を一緒に安全な状態で鑑賞できるように、収納したまま展示を行うことができる保存箱を作成した(A05-3)。
本研究では当該作品の歴史や技法、作品調査を行い、それらの理解をもとに保存修復処置を実行することができた。しかし、本作品の原画?作者がまだ判明していないこと、陶板画の歴史についてまだ理解が浅いことから歴史的な調査の継続が求められる。