文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

安倍拓矢|彫刻文化財修復に用いる木屎漆の研究 ?手板制作を通じて?
宮城県出身
柿田喜則ゼミ

 本研究では天然の修復素材として彫刻文化財修復に使用される木屎漆(画像1)に着目した。木屎漆の作製には、漆?小麦粉?木粉の分量比が重要となる。常時的確な分量比で作製することで修復素材としての役割を保つことができるからである。しかし、この分量比は修復技術者の技術力や経験則によるところが大きいため、作製する上で目安となるような材料の分量比が存在していないのが現状である。筆者は修復を学ぶ段階の未経験者であり、木屎漆作製における漆?小麦粉?木粉の分量比や使用する際の適正の判断が難しい。
 そこで、本研究では修復技術者や職人が適正と考える木屎漆の条件を定義した上で、その条件に見合う木屎漆作成のための分量比を探った。またゼミで作製した小麦粉を水練りする木屎漆と日本国内で国宝や重要文化財など指定文化財の修復を担う、公益財団法人美術院 国宝修理所が取り入れている水練りしない木屎漆を作成し、比較実験を行い各々の木屎漆の特性を探った。
 本研究では最初に、修復技術者や職人が適正と考える木屎漆の条件を評価基準として、予備実験にて水練り無しの木屎漆の作製手順を、生漆の量、木粉の量の条件を変更した木屎漆を5通り作製し、比較することで探った。その後、本実験として予備実験で設定した水練り無しの木屎漆と、当ゼミで用いている方法で作製した水練りありの木屎漆との特性の違いについて手板を用いて検証し修復技術者や職人が適正と考える木屎漆の分量比、手順に則って評価し表にまとめた。
 実験の結果から、水練りありの木屎漆は水3g、小麦粉5g、漆3g、木粉0.4g、水練りなしの木屎漆は漆6g、小麦粉5g、木粉0.4gという重量を目安として作製すると、11.5gほどの木屎漆を作製することができることがわかった。この分量で作製した木屎漆は、直径3cm、深さ0.5cmの穴を埋めることができる量となり、これは修復技術者が修復作業を行う際に一度に用いる木屎漆の量に近いと考える。また、作成方法や分量比によって木屎漆の特性にも違いが見られたため、修復対象の損傷状況に応じた使い分けが必要であると考える。

1.損傷箇所に木屎漆を盛り付ける様子

2.水練りありの木屎漆

3.水練りなしの木屎漆