歴史遺産学科Department of Historic Heritage

大井那奈|「ムカサリ絵?」はどのように伝わっていくのかー鈴??若松寺を事例にー
宮城県出身
松田俊介ゼミ

 ムカサリ絵馬とは、山形県の村山?最上地方に伝わる、死者と架空の相手の結婚式が描かれた絵馬である。様々な理由で結婚せず亡くなった子のため、親や兄弟などが描き、供養するというものであった。「ムカサリ」とは「結婚」や「結婚式」、また「花嫁」を意味する。かつては「オナカマ」と呼ばれる巫女の主導のもと行われていた。山形県天童市に所在する鈴立山若松寺には、現在もムカサリ絵馬の奉納がある。
 本研究では、ムカサリ絵馬について現地調査を行い、その結果と先行研究を比較し、描画様式の変化について検討を行う。また、実際にムカサリ絵馬奉納習俗に関わるムカサリ絵馬師の髙橋氏へインタビューを行い、現在のムカサリ絵馬を取り巻く環境について理解を深め、今後ムカサリ絵馬がどのような伝わり方をしていくのかを検討していく。
 ムカサリ絵馬の発信のされ方について、髙橋氏は「怖い話」の方が多くの人の興味を引くことができるとし、そこから実際のムカサリ絵馬奉納習俗について知ってもらえればいいと述べた。山本亜季(2020)は、ムカサリ絵馬の持つ「禁忌」という属性が、ムカサリ絵馬奉納習俗が娯楽化されるようになった最も大きい原因の一つであると考察している。山本は新たな「ムカサリ絵馬」概念がインターネット上に一種のコンテンツとして分布することが、ムカサリ絵馬とその奉納習俗が生き延びるための生存戦略であると論じている。
 関係者の方の話から、YouTubeがムカサリ絵馬について多くの人が知るきっかけとなっていることが分かった。YouTubeはムカサリ絵馬に深く関わっている人が実際に話をしている様子をいつでも、誰でも、何度でも見ることが可能である。
 かつて山形県の一部地域で行われてきたムカサリ絵馬の奉納習俗は、今や日本のさまざまな地域へと広まっている。テレビ番組や掲示板、漫画などとは異なる特徴を持つYouTubeの動画によってこれからもさらにムカサリ絵馬を知る人は増えていくだろう。ムカサリ絵馬の奉納は、その存続にメディアが大きく関わっている習俗であり、担い手も意識的かつ戦略的に文化保存の方法としてこれを受容していると考えることができる。