
花笠まつり
暑い日が続いている。汗だくだ。なんてことだ。したたる汗のせいで、せっかくのメイクも落ちてしまいそうだ。

というのは、8月5日のことである。その日、毎年恒例の花笠まつりに参加してきたのだ。年々、メイクの厚塗りに拍車がかかり、今年は花笠チュートリアルの学生の力を借りて、日本で最も有名な悪魔を模してみたりしたのだ。

祭りに参加して踊っている最中、メイクをしていることを忘れてしまい、沿道から「デーモーン」と有り難い声援を受けるのだが、それがわたしに向けられていることに気がつかないことが幾度かあった。
メイク、仮面、仮装…。そういえば、三島由紀夫の名著『仮面の告白』は、LGBTQという議題が取り上げられる近年に先駆けること半世紀も前、当事者の心を赤裸々に、かつ、妖艶に語る画期的な小説だった。

で、この機会に『仮面の告白』を読み返してみた。この小説の冒頭のエピソード、愛する人と同じ存在になりたいという願望はわかる気がする。デーモンが好きでデーモンになりたい。そういうことだ。みうらじゅんが「自分探し」ではなく憧れの誰かになるための「自分なくし」を提唱していることに通じるものがある。
仮面とは一体なんだろう。そもそも、本当の自分はどこにいるのか。毎日、仮面を被って生きているのではないか。とか、いろいろなことをかんがえるのに、メイクして別人を演じてみるのも良い体験である。
ロックの語尾?ロックな語尾
仮面、メイクといえばキッス(KISS)の登場である。きっとキッスといえばこの曲!というのが1979年の「ラビン?ユー?ベイビー(I Was Made for Loving You)」だろう。

当時の流行だったディスコ音楽に、強引で単純な「愛の告白」が乗っている。詩の中身といえば「仮面の告白」の厚みの2割くらいの気がする。邦題も「ラビン?ユー?ベイビー」と、腰が抜けるほど紋切り型なロック野郎ぶりである。今回の翻訳はそんな雰囲気を伝えるべく、語尾に「ぜ」を多用してお届けします。とりあえず聴こうぜ!ベイビー!
Tonight, I wanna give it all to you
今夜、すべてをきみに捧げたいぜIn the darkness, there’s so much I wanna do
暗闇には、やりたいことが山のようにあるんだAnd tonight, I want to lay it at your feet
で、今夜、きみの足元に捧げたいぜ‘Cause, girl, I was made for you
だって、ぼくはきみのために生まれたんだぜAnd, girl, you were made for me
そして、きみはぼくのために生まれたんだぜ
(Chorus)
I was made for lovin’ you, baby
ぼくはきみを愛するために生まれてきたんだぜベイビーYou were made for lovin’ me
きみはぼくを愛するために生まれてきたんだAnd I can’t get enough of you, baby
きみがまだまだ足りてないぜベイビーCan you get enough of me?
ぼくのことも足りてないだろ?
Tonight, I wanna see it in your eyes
今夜、きみの目のなかに見つけたいぜFeel the magic, there’s something that drives me wild
魔法を感じて、ぼくをワイルドにさせる何かがあるんだAnd tonight, we’re gonna make it all come true
で、今夜、ぼくらで叶えようぜ‘Cause, girl, you were made for me
だって、きみはぼくのために生まれてきたんだぜAnd, girl, I was made for you
そして、ぼくはきみのために生まれてきたんだぜ
(Chorus)
日本語の終助詞「ぜ」とは、もともと終助詞「ぞ」にさらに終助詞「え」がくっついて「ぞえ」となり、今の「ぜ」になったという。「ぜ」すら今この威廉希尔官网の時代には古ぼったい響きになりかけている気がするが、「ぞえ」にすると、一層古めかしさが出る。「ベイビーきみのことを愛しているぞえ!」とか「今夜きみをさらってしまうぞえ!」一周回ってかっこ良くなりそうな気もする。
さて、9月20日(土)と21日(日)は芸工祭です。ぜひ予定に入れておいてください。

もはや毎年恒例のグッズ販売出張所。この「かんがえるジュークボックス」は大学本館のどこかに出店するので、ブースでお会いしましょう。ベイビー、待ってるぜ!
それでは、次の1曲までごきげんよう。
Love and Mercy
(文?写真:亀山博之)
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#かんがえるジュークボックス(第1回~第34回)

亀山博之(かめやま?ひろゆき)
1979年山形県生まれ。東北大学国際文化研究科博士課程後期単位取得満期退学。修士(国際文化)。専門は英語教育、19世紀アメリカ文学およびアメリカ文学思想史。
著書に『Companion to English Communication』(2021年)ほか、論文に「エマソンとヒッピーとの共振点―反権威主義と信仰」『ヒッピー世代の先覚者たち』(中山悟視編、2019年)、「『自然』と『人間』へのエマソンの対位法的視点についての考察」(2023年)など。日本ソロー学会第1回新人賞受賞(2021年)。
趣味はピアノ、ジョギング、レコード収集。尊敬する人はJ.S.バッハ。
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