Illustration:佐藤真衣
design:マンクリエイト
美術館大学構想シンポジウムvol.1
ことばの柱をたてる|美術館大学ことはじめ
山形の魅力は、様々な世代が土地に根ざした暮らしや家庭の中で、個性を持って共存していることではないでしょうか。本来、日本の伝統文化はそのような命の連なり、営みの伝承によって育まれてきました。この街で成長していくことは、山形の風土によって培われてきた様々な世代の眼が育んでいくことに他なりません。素晴らしい郷土文化の絶え間ない持続は、次代の担う若者たち、子どもたちの、土地を愛する心の育成にかかっています。
そして全国に数ある芸術系大学のなかでも、ここ東北芸術工科大学ほど、周辺地域の心の眼によって暖かく支えられてきた大学はありません。美術やデザイン、文化保存や民俗学の教育実践を通して、地域の将来にどのように貢献していくのか?
このことは本学のひとつの教育指針であると同時に、自然環境の崩壊が深刻さを増し、血なまぐさい文明の衝突や、グローバリゼーションの拡大により平坦な価値基準に覆われつつある今日の世界状況において、豊かな自然に寄添う共同体を保ち続ける「東北」という方位に向けられた使命でもあると、私たちは考えます。
本学は、地域の将来を着実に見据えた地域密着型の芸術文化活動こそが、その一翼を担うのだという意気込みをもって、2000年にキャンパスを「地域ミュージアム」に変貌させるプロジェクト「美術館大学構想」を起草し、学内を地域の方々との出会いと交流の場とするべく、施設改修に継続的に取り組んで参りました。そして今秋、本格的な公開事業の始動にあわせて、「美術館大学」あるべき姿を語り合うシンポジウムを開催し、日本の伝統的な美意識はどのような風土条件によって生み出されてきたか、また、先人たちの感性は、現代おいてどのように継承され表現されていくべきかを、地域の皆さんと共に考え、当館の活動の基軸を定めて参ります。
シンポジウム『ことばの柱をたてる|美術館大学ことはじめ』の舞台となるこども劇場には、近著『海の鎖』において近代日本美術史の新たな地平をひらいた美術評論家・酒井忠康氏をモデレーターに、パネリストとして斉藤茂吉や芭蕉の現代における優れた翻訳者である比較文化学者の芳賀徹氏と、米沢の生んだ建築家・伊東忠太の、精神的な継承者と呼べる建築史家・藤森照信氏をお呼びし、古代から現代まで東北に根ざしてきた芸術文化の精神を掘り起こします。有史より、世界各地で天と地を垂直に結ぶ象徴として立てられてきた柱。現代日本の芸術文化を、屋台骨で支える3つの知性による対話は、本学が提唱する東北ルネサンスの「ことばの支柱」となることでしょう。
秋の蔵王の麓に、まだ見ぬ「美術館大学」の棟上げの「声」が響きます。「私たちの東北の芸術」を巡る、おおらかな語り場にぜひ足をお運びください。
- 日時=2005年10月29日[土]15:00−18:00
- 会場=こども芸術教育研究センターこども劇場
- パネリスト=芳賀徹(前・京都造形芸術大学学長/岡崎市美術博物館館長)/藤森照信(建築史家/建築家/東京大学教授)/酒井忠康(世田谷美術館館長/東北芸術工科大学教授)
●パネリストプロフィール
芳賀徹 Toru Haga
1931年山形県生まれ。東京大学教養学部卒、東京大学大学院人文科学研究科比較文学比較文化専攻、博士課程修了。文学博士。国際日本文化研究センター名誉教授、東京大学名誉教授、岡崎市美術博物館館長。18世紀から明治維新をへて、20世紀までの日本の文学、思想、芸術の歴史を、諸外国との接触、交流、対立、相互触発の関係の歴史のなかで再構築する論考を展開。主な著作として『平賀源内』(朝日新聞社、1981)でサントリー学芸賞、『絵画の領分』(朝日新聞社、1984)で大佛次郎賞受賞。他に、『詩の国詩人の国』(筑摩書房)/『詩歌の森へ』(中央公論新社、2002)/『ひびきあう詩心』(TBSブリタニカ、2002)/『明治維新と日本人』(講談社、1980)など多数。訳書にドナルド・キーン『日本人の西洋発見』(中央公論社、1968)、ジョージ・サンソム『西欧世界と日本』(筑摩書房、1966)などがある。
藤森照信 Terunobu Fujimori
1946年長野県生まれ。78年東京大学大学院工学系研究科建築学専門課程修了。東京大学生産技術研究所教授、建築史家、建築家。全国各地で近代建築の研究にあたる一方、卓抜な観察力、広範な学識経験を生かした「建築探偵団」や「路上観察学会」などのユニークな調査活動をおこなう。建築作品も手がけ、97年に「赤瀬川源平氏邸(ニラ・ハウス)に示されたゆとりぬくもりの空間創出」により日本芸術大賞受賞。主な著書に『藤森照信野蛮ギャルド建築』(TOTO出版)、1998/『タンポポ・ハウスのできるまで』(朝日新聞社、1999)/『藤森照信建築作品集』中華文化復興運動総会、2003/『藤森流自然素材の使い方』(彰国社、2005)。主な建築作品に『神長官守矢史料館』(長野、1991)/『タンポポ・ハウス』(東京、1995)/『ニラ・ハウス』(東京、1997)/『秋野不矩美術館』(静岡、1997)/『熊本県立農業大学校学生寮』(熊本、2000)/『矩庵』(京都、2003)/『高過庵』(長野、2004)などがある。
酒井忠康 Tadayasu Sakai
1941年北海道生まれ。64年慶応義塾大学卒。64年神奈川県立近代美術館勤務。92年館長。2004年同館顧問。世田谷美術館館長に就任、現在に至る。その間、数多くの企画展を担当。全国美術館会議理事。美術館連絡協議会理事長。国際美術評論家連盟会員。日本近代の美術史に造詣が深く、芸術家の風土性や気象をベースにした美術評論に特色がある。目下、パブリック・アートの現状について調査中。1986、88年ヴェニス・ビエンナーレのコミッショナー。1989、91年サンパウロ・ビエンナーレのキュレーター。多数の著作・著書の主要なもののうち日本近代美術史に関するものとして『海の鎖─描かれた維新』(青幻舎、2004)/現代彫刻に関するものとして『彫刻家への手紙』(未知谷、2003)/美術館活動に関するものとして『その年もまた─鎌倉近代美術館を巡る人々─』(鎌倉春秋、2004)などがある。